過去のある出来事から「恋愛はしない」と宣言する26歳のOLが10歳年下の高校生の真っすぐな想いに触れ、現実と向き合い、一歩を踏み出す。映画『水は海に向かって流れる』は田島列島の同名コミックの実写映画化です。主人公の榊千紗を演じるのは、広瀬すず。感情を表に出さない大人の女性をクールに演じています。榊に淡い想いを寄せる直達役に抜擢されたのは大西利空。子役として幼い頃からキャリアを積み上げ、満を持して等身大の高校生役を演じます。脚本開発にも関わった前田哲監督に作品への思いやキャストについて、語っていただきました。(取材・文/ほりきみき)

23歳の広瀬すずが26歳の主人公に挑む

──榊千沙を演じた広瀬すずさんの大人びた雰囲気に驚きました。

観客はどなたが演じた榊をいちばん見たいか。「この人がこの役をやるの?」という意外性も面白さに繋がることも含めてプロデューサーと話している中で広瀬すずさんのお名前が挙がり、お願いしました。榊は感情を封印して淡々と生きていますが、広瀬さんなら湿っぽさを感じさせずにそれを自然に見せてくれると思ったのです。

榊は26歳で、当時、広瀬さんは23歳。ちょっと背伸びではありますが、榊は16歳で時間が止まっているということを考えれば、ちょうどいいタイミングで広瀬さんに演じてもらえました。

画像: 23歳の広瀬すずが26歳の主人公に挑む

──広瀬さんとは脚本を丁寧に確認されたそうですね。

映画に入る前にはどの作品も役の心情や行動、セリフについて、脚本を1ページずつめくりながらキャッチボールするように一字一句、語尾のイントネーションも含めて、感情の流れを確認し合ってからクランクインしています。

──現場での広瀬さんはいかがでしたか。

広瀬さんはテイクワンがすごくいいんです。彼女の芝居に見入ってしまって、予定にない長回しをしたところがいくつもありました。

例えば、直達が感情を溢れさせて語るシーン。カメラは直達を演じた大西くんだけでなく、広瀬さんのアップを捉えていますが、素晴らしいです。広瀬さんの真骨頂じゃないですかね。広瀬さんの表情から榊の感情がどんどん溢れてきて、切なさが伝わってくる。直達の思いを聞いている顔が美しい。急遽、長回しをしました。編集上はカットを割って、間に直達が入っていますが、榊に関しては、テイクワンで撮ったいい表情を通して使っています。ここはみなさんぐっとくると思います。

榊が直達に「見つけてくれてありがとう」というシーンもテイクワンです。それまでの撮影から広瀬さんはテイクワンがいちばん美しいとわかっていたので、最初から長回しの体制をしっかり整え、テストは軽く台詞の棒読みにして動きだけを決めて、本番に臨んだところ、いいものが撮れました。

──熊沢直達を演じた大西利空さんはいかがでしたか。

直達役はオーディションをしましたが、大西くんは子役からやっているので経験値が高く、本人のキャラクターが直達に近いことが決め手になりました。

先程お話した涙を流しながら語るシーン、実はなかなか感情が出なかったのです。子役から経験を積んでいて、自分に自信があったと思うのですが、だからこそ、いつも感情を抑えてローな感じで生きてきた直達に大西くん自身がシンクロしてしまい、いつの間にか感情を抑える性が身についてしまったようです。

芝居はリアクションが大切。感情のライブな感じはその瞬間にしか出ないもので、何か考えて演じたのは、あくまでも考えた結果です。基本的にはぱっとその場で出たテイクワンがいちばんいいと僕は考えています。しかし、テイクワンで出す人がうまくて、テイク10で出す人がダメというわけではありません。テイクを重ねるほどよくなる人もいます。人によって、タイミングによって、シーンの流れによっても違うもの。俳優さんは自分のタイミングで演じていく。こちらはそれを計算して、余裕を持ったスケジュールを組んでおけばいい。それがスタッフの役目でもあります。

大西くんのパートは2日間掛けて撮りましたが、直達らしい感情の持っていき方をしてくれた大西くんもまた素晴らしいと思いました。

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