10センチくらい浮いた感じでファンタジー感あふれるシェアハウス
──シェアハウス住人の衣装やシェアハウス内はとてもポップな色使いになっています。どのような演出意図があるのでしょうか。
榊は16歳のときにある理由で恋愛はしないと決め、そのときから時間が止まっています。そんな榊にとって、シェアハウスは居心地のいい逃げ場。この作品は榊が現実と向き合い、自分自身を開放し、止まっていた時間が動き出すまでを描いているので、シェアハウスをファンタジーの世界のようにカラフルで、10センチくらい浮いた感じで美術部さんに作ってもらいました。
衣装も10センチ浮いたファンタジーな世界観の流れですね。榊はブルー系、直達はグリーン系、楓はレッド系、大学教授の成瀬はブラウン系とそれぞれのキャラクターに合わせてテーマカラーがあります。作品のタイトルに「水」と「海」が入っているので、作品全体のカラーがブルーで、榊のブルーは最初から決めていました。
──ポスタービジュアルの榊が着ている青いワンピースはかなりこだわってオーダーメイドされたそうですね。
そのワンピースはラストに向けての重要なシーンで榊が着ています。彼女の決心の現れ、いわゆる勝負服。惨めに見られたくないし、かといって華美に見えてもいけない。「どういう風に美しく映る色合いか」にこだわり、“太陽の直射にどう映るか”、“曇りならどうか”、“濡れたら色がどう変わるか”、“濡れたらどうなる素材か”ということを材質も含めてスタイリストさんと綿密に相談して、カメラテストを何度も繰り返して決めました。
──監督がこの作品を通じて伝えたかった思いについてお聞かせください。
親の理不尽な選択や勝手な都合に振り回される子どもが増えています。親がいる環境の影響も大きく、そういうものに振り回されざるを得ないのでしょうけれど、それによってその子の人生が変わってしまう。それでも、負けずに自分の人生を歩んでほしいという思いがすごくあります。
周りから見れば、小石に躓いただけに見えることが、本人にとっては大きな岩や高い壁にぶつかったと思っているのかもしれませんし、水たまりのようなところで溺れているように見えることが、本人にとっては流れの早い川や大きな海で溺れているような気がしているのかもしれません。そういうものに囚われてしまった子どもたちが残酷な現実とどう向き合って生きていくか。そこに静かに優しくエールを送るというか、そういう理不尽な状況にいる子の隣にそっと座って、黙って話を聞いてあげるような映画でありたいと思っています。
<PROFILE>
監督:前田哲
撮影所で大道具のバイトから美術助手を経た後、フリーの助監督として、伊丹十三、滝田洋二郎、大森一樹、崔洋一、阪本順治、周防正行などの監督作品に携わる。相米慎二監督のもとで、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語・かわいいひと』で劇場映画デビュー。主な監督作品は『パコダテ人』(02)、『陽気なギャングが地球を消す』(06)、『ドルフィンブルーフジ』 、もういちど宙へ』(07)、『ブタがいた教室』(08)、『極道めし』(11)、『王様とボク』(12)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛き実話』(18)、『老後の資金がありません!』(21)、『そして、バトンは渡された』(21)など。2023年には『ロストケア』、『大名選挙』が公開。
『水は海に向かって流れる』2023年6月9日(金)全国公開
<STORY>
通学のため、叔父・茂道の家に居候することになった高校生の直達。だが、どしゃぶりの雨の中、最寄りの駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性、榊さんだった。案内されたのはまさかのシェアハウス。いつも不機嫌そうにしているが、気まぐれに美味しいご飯を振る舞う26 歳の OL ・榊さんを始めとし、脱サラしたマンガ家の茂道(通称:ニゲミチ先生)、女装の占い師・泉谷、海外を放浪する大学教授・成瀬)…と、いずれもクセ者揃いの男女5人、さらには、拾った猫ミスタームーンライト(愛称:ムー)をきっかけにシェアハウスを訪れるようになった直達の同級生で泉谷の妹・楓も混ざり、想定外の共同生活が始まっていく。そして、日々を淡々と過ごす榊さんに淡い想いを抱き始める直達だったが、「恋愛はしない」と宣言する彼女との間には、過去に思いも寄らぬ因縁が
……。榊さんが恋愛を止めてしまった《本当の理由》とは・・・?
<STAFF&CAST>
監督:前田哲
出演:広瀬すず、大西利空、高良健吾、戸塚純貴、當真あみ、勝村政信、北村有起哉、坂井真紀、生瀬勝久
原作:田島列島『水は海に向かって流れる』(講談社『少年マガジン KCDX』刊)
脚本:大島里美
音楽:羽毛田丈史
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社