正反対な性格の萱島と宇和島という2人の男性が車の事故をきっかけに人里離れた森の奥深くに迷い込み、その森に暮らす美しくも奇妙な6人の女たちに監禁され、翻弄されていく。竹野内豊と山田孝之が主演する『唄う六人の女』で監督を務めたのは石橋義正氏。異例のマネキン主演ドラマ「オー!マイキー」(2002)や山田孝之の七変化が話題を呼んだ「ミロクローゼ」(2012)など独特の世界観を持ち、インスタレーションや映像作品など幅広いジャンルで世界をフィールドに活躍している。日本の原風景を切り取った映像美で作品を作り上げた石橋監督に、テーマやキャストについて語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

「芦生の森」から全身で受けた感動を伝えたい

──本作はサスペンスフルに展開していきますが、そこには壮大なテーマが通底しています。そのテーマを描こうと思ったきっかけからお聞かせください。

以前から生態系について考えていました。自分らしいエンターテインメント性やユーモアのテイストを入れながら、生態系をテーマとした劇場用の映画を作って、多くの方にご覧いただきたいと思い、5年前から台本に取り掛かり、3年半くらいかけて書き上げました。

異世界に連れて行かれるというサスペンス的な導入ではじまりますが、徐々に映画の作り方が変化し、ドラマティックになっていきます。登場する男性2人は正反対な性格ですが、どちらも人間が持っている二面性の部分です。最初は何とか共存していますが、やがて完全に分離してしまうという構造にしました。

画像: 石橋義正監督

石橋義正監督

──水のシーンが随所に挟み込まれていましたが、どのシーンも印象的でした。ただ、水の動きは予測しにくいので、台本作りで苦労されたのではありませんか。

水のように動きのあるものが画面の中にあると、光の加減、サウンドなど、いろいろな要素を引き立ててくれます。特に雨は視覚的な良さだけでなく、雨音がその世界を全方向から包み込むことになるので、すごく好きですね。自然の中に自分がいるのを感じます。この作品には雨も多く入れました。ただ、条件的に雨を降らすことができないロケ地もあったので、そこはいろいろと工夫しています。

──雨のシーンは撮影が大変ですよね。

雨降らしは規模が大きくなるので、費用や手間、時間も掛かって大変です。

それだけでなく、今回は「芦生の森」という原生林で撮影させてもらったのですが、その場所は外部から水を持ち込むことができなかったのです。雨降らしでは普通、水道水をタンクに溜めて噴き上げる降らし方をしますが、それをするのであれば、芦生の森を流れる川の水を汲み上げて、それを噴いてほしいと言われました。

芦生の森は研究林として保護されている場所です。特別な許可をいただいて撮影しましたが、本来はなかなか許可が下りるような場所ではなく、水のこと以外にもいくつかの厳しい条件を出されました。森に入るときには長靴をはかなくてはいけませんが、入るときにまず長靴を洗って、外の菌を持ち込まない。下山するときは森の中の菌を外に持ち出さないよう、長靴を洗って帰る。そういった様々な決まりがあるのです。

でもそれは生態系を維持するために納得できる条件です。雨を人工的に降らすことはできないとわかったので、雨のシーンはできるだけ森に近い、別の場所で撮影をしました。

──それは飲み物としてペットボトルなどの持ち込みもできないということでしょうか。

もちろんペットボトルや水筒の水も持ち込めません。撮影には苦労しましたが、そこで撮れてよかったと思っています。もちろん、近くの森を芦生の森に見立てて撮影したシーンもありますから、芦生の森に近い状態で全編撮ることもできたかもしれません。しかし、芦生の森から全身で受けた感動をどうしても映画を通じて伝えたい。そのためには視覚的に再現するだけでなく、キャストやスタッフといった作品に関わっているすべての人たちが同じような感動を経験し、その場所で撮るのがいちばん。そういう作業をしてよかったと思います。

──実際に芦生の森で撮影したシーンはどちらでしょうか。

萱島の父親が撮った写真の場所、桂の大木、萱島が酒に酔って森の中を彷徨っているシーンです。ただ、昼間しか撮影できないので、夜のシーンは後から潰して夜にしています。

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