役者としての職業意識が高い杉咲花
──杉咲花さんも今回、初めてですね。
この作品に対してどういうことを考えていて、どういう風にしたいのかを衣装合わせの前に擦り合わせたのですが、最初は僕の言葉に戸惑われていました。台本には美鈴が壊れていく様は書かれていませんが、生い立ちを踏まえて現在軸を考えていくと、自分が求めているのとは違った方にどんどん転じてしまっています。そのようなとき、人間はどういう反応をするのか。僕は台本に書かれていることよりも杉咲さんには跳躍してほしいと思い、最初から美鈴が壊れていく話をしたので、パニックになってしまったのだと思います。
僕が話せば話すほど顔が曇っていく。「ああ、困ったな」と思ったのですが、「お芝居の中でこれはできているよ」、「これはもう少しこうしてみよう」と1つ1つ積み上げていくうちに、最初は不安だったものが、僕が求めているものに近づいていっていると杉咲さんが思えたようです。初日の撮影が終わった辺りは清々しい顔をされていたのでほっとしました。そこからは同じ目標に進めていけた気がします。
──先程、永瀬さんは積極的に質問してくるタイプだと話されていましたが、杉咲さんはどんなタイプでしたか。
どうしてもわからないときには聞いてきましたが、基本的には僕が杉咲さんに話すことだけでなく、僕がスタッフに対して話すことも注意深く聞いていて、「そっちかぁ」みたいに考えているようでした。役について深く考え、監督よりも理解したいと思っていて、その中で監督が求めるものにアジャストしていくという職業意識が高い役者さんなのだと思います。
美鈴が壊れていくシーンの撮影が近づいてきたときに「監督、あれを本当にやるんですか」と聞かれました。「俺はやろうと思っているけれど、どう思う?」と答えたら、「やれとおっしゃるのであればやります」と。それで「中途半端はダメだから、やり過ぎるくらいのつもりでやってほしい。そのコントロールは僕がするから」と伝えたところ、思いっきりやってくれました。
──美鈴が壊れていくシーンで永瀬さんが泣きたくなってしまったという話をうかがいましたが、杉咲さんはそれを聞いていらっしゃったのでしょうか。
聞いていないはずです。役者に話すことは1人、1人変え、共通の話はしていませんから。
美鈴が壊れていくところはラブシーンであり、別れを告げるシーンでもあると僕は思っていました。それを2人には伝えていませんが、そのシーンの撮影のときは休憩時間もずっと2人でお互いを感じられるところにいたのです。それはきっと役者としての摂理なのでしょうね。
『法廷遊戯』全国公開中
<STORY>
清義(永瀬廉)、美鈴(杉咲花)、馨(北村匠海)の3人は名門・法都大学のロースクールの同級生。彼らのクラスでは、「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判が日々繰り広げられていた。このゲームは在学中に司法試験に合格した学校イチの秀才である馨が主宰者で、クラスで起こった事件の罪を申し立てたい生徒が原告になる。残りのクラスメイトたちも参加者として集まって開かれていた。
ある日、清義が16歳のときに殺人未遂の疑いで逮捕され過去を暴く内容のビラがクラスに撒かれた。清義は告発者へ異議を申し立てるため、幼馴染であり現場近くに座っていた美鈴を弁護人に指名し、「無辜ゲーム」を申請した。
やがてロースクール卒業し、清義は弁護士に、馨は大学に残って法学の研究者と別々の道を歩んでいた。久しぶりに「無辜ゲーム」を開くと馨に呼び出された清義が会場にしていた学校の裏の洞窟に向かうと、そこには馨の死体の隣でナイフを手に放心する美鈴がいた。美鈴は清義に「お願い、私を弁護して」と話し、その後は一切口を聞かなくなってしまった。ただの模擬裁判だったはずの「無辜ゲーム」に隠されていた衝撃の事実とは…。
<STAFF&CAST>
監督:深川栄洋
原作:五十嵐律人『法廷遊戯』(講談社刊)
脚本:松田沙也
主題歌:King & Prince「愛し生きること」(UNIVERSAL MUSIC)
出演:永瀬廉(King & Prince)、杉咲花、北村匠海
戸塚純貴、黒沢あすか、倉野章子、やべけんじ、タモト清嵐
柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、大森南朋
配給:東映
©五十嵐律人/講談社 ©2023「法廷遊戯」製作委員会