他人の価値観に影響を受けない上野樹里と天賦の才がある林遣都
──主人公の柏木良子を上野樹里さんが演じています。キャスティングの決め手をお聞かせください。
直感で上野樹里が絶対にいいと思って、台本を送って読んでもらいました。ご本人にも理由を聞かれて、そのときはうまく答えられなかったのですが、改めて冷静に考えてみると、上野さんは他人の価値観に振り回されたりせず、自分が感じて考えたことで決められる人です。周りの様子をうかがったりしません。若いときからそう。以前、一緒に映画を作っているのでわかります。
今回の良子はすごく地味な生活をしているのですが、周りの価値観ではなくて、自分の決断で決められるというのが魅力のキャラクターです。それを上野さんが演じるとすごくはまると思ったのがいちばんの理由です。
──上野さんとは『虹の女神 Rainbow Song』(2006)で組まれていますね。本作について、上野さんとじっくりと話をし、さまざまな提案をいただいたと聞きました。
台本をお渡ししたら、本人から電話が掛かってきたのです。そのとき30分ほど話をして、翌週に所属事務所で会って話しましょうと約束して、電話を切ったのですが、翌日、また電話が掛かってきて、今度は2時間以上、話をしました。台本を読み返したら、更に別の感想も生まれ、今直ぐに伝えたくて、居ても立っても居られなくなった様子でした。
翌週、約束通り所属事務所で会ったのですが、台本にはびっしりと書き込みがされていました。ご自身が感じたこと、思ったことを1つ1つ伝えてくれて、気がついたら打合わせは8時間くらい経っていました。その後、上野さんから聞いた話を参考にして書き直すというやり取りを何回かやっています。それによって良子によりリアリティが生まれてきました。
また、ネタバレになるので具体的には言えないのですが、すごく大きな部分で上野さんのアイデアを取り入れています。
──台本を作っていく際に何度もお話をされたということが良子の役作りにも繋がったのでしょうか。
台本を作るため、良子について、2年間ずっとディスカッションしていましたから、良子像はお互いにしっかり固まり、現場でブレることが全くありませんでした。
──良子に近づく週刊誌記者の笹憲太郎を林遣都さんが演じています。林さんにオファーしたのはどうしてでしょうか。
人間の弱い部分はカッコ悪かったりするじゃないですか、そこをしっかり演じられる人ってなかなかいない。笹は難しい役どころです。
遣都くんとは『ダイブ!!』(2008)で組みましたが、その後も彼が稀な努力家であるといういろんな噂は聞いていましたし、彼が出演した作品を見ると力があるなと感じることが多い。しかも、どの作品でも役者として結果を出している。彼なら大丈夫だと確信してオファーしました。
──林さんとはどのように笹憲太郎を作っていかれましたか。
最初の顔合わせのときに「台本に書かれている以上に追い詰められて、すごく辛い状況になり、精神衰弱になってしまうような笹をカメラが徹底的に追うから、連日大変だと思うけれど覚悟してほしい」と伝えたら、「やっぱりそういうことなんですね」と笑顔で言われました。彼はセリフにない、台本の行間をちゃんと読み込んでて、僕の意図をちゃんと分かっていたのです。
とはいえ、実際に現場に入ってやってみると「思った以上にしんどい」とは言っていました。徹底的に辛い状態を生身の演者としてそのまま経験するので、体力的にも過酷な状況だったと思います。
しかも今回は編集部のシーンを全部先に東京で撮り、他のシーンは後日、滋賀で撮るだけでなく、時系列をかなり入れ替えて撮影しているので、順番に変化を確認しながら撮影していくことができなかったのです。演じる人にとってはすごく難しい。わからないという俳優がいてもおかしくありません。
笹が受けているプレッシャーや苦しみの匙加減は、僕の方から絶えず現場で伝えるようにしていましたが、その度合いは実のところ僕自身も100%の自信はありませんでした。むしろ遣都くんの方がちゃんと分かっていて、「このシーンはこのくらいで大丈夫でしたっけ?」と言われました。
久しぶりに一緒に仕事をしましたが、改めて「林遣都はすごいな」と思いましたね。天賦の才があるのでしょうけれど、それ以上に彼の努力もあると思います。
──監督からご覧になった上野さん、林さんの役者としての魅力はどんなところでしょうか。
上野さんは若い頃から純粋で、自分で決断するところや作品に対する愛情は変わっていません。しかも『虹の女神 Rainbow Song』のときはどちらかというとスパッと尖った感じだったのですが、そのころよりも柔和になっていました。柔らかさが加わったことで、より素敵な女優さんになったのを感じます。いい作品を残してきたのも納得です。この作品で大人の上野樹里が出せたと思いますが、今後もより年齢に合った大人の上野樹里を見せてほしいと楽しみにしています。
遣都くんも久しぶりに一緒に仕事をしたら、びっくりするくらいすごい俳優になっていました。この後も映画や連ドラの予定がびっしり決まっているようです。日本を代表する俳優になったのを感じました。
お二人とは今度はこんなに時間を空けずに、また一緒に何かやりたいです。
<PROFILE>
監督・脚本・編集:熊澤尚人
1967年、愛知県出身。大学卒業後、ポニーキャニオンに入社し、映画プロデュースに携わる。1994年、『りべらる』がPFFに入選。2004年短編『TOKYO NOIR〜Birthday』でポルト国際映画祭最優秀監督賞を受賞。2005年自身のオリジナル脚本による『ニライカナイからの手紙』で商業監督長編デビュー。代表作は『虹の女神 Rainbow Song』(06)、『ダイブ!!』(08)、『おと・な・り』(09)、『君に届け』(10)、『近キョリ恋愛』(14)、『心が叫びたがってるんだ。』、『ユリゴコロ』(共に17)、『ごっこ』(18)、『おもいで写眞』(21)など。上野樹里とは『虹の女神 Rainbow Song』以来17年ぶり、林遣都とは『ダイブ!!』以来15年ぶりのタッグとなる。
『隣人X -疑惑の彼女-』12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国公開
<STORY>
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか?彼らの目的は何なのか?人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ・・・!
<STAFF&CAST>
出演:上野樹里 林 遣都
黃 姵嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子
バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECARecords)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/