あり得ない2人の関係に魅力があればリアリティが生まれる
──原作は和山やまさんの同名人気コミックです。お読みになっていかがでしたか。
男性的なニュアンスとは違う笑いのセンスが自分には新鮮で面白かったですね。和山先生の笑いは押しつけがましくなく、淡々と進んでいくのですが、その辺りは自分にも合っている気がしました。
そのときには野木(亜紀子)さんが脚本を書かれると決まっていましたし、野木さんもこの原作が大好きだとおっしゃっていましたから、絶対に面白いものになると思いました。
──野木亜紀子さんとは2020年に「コタキ兄弟と四苦八苦」(テレビ東京系)でも組まれていますが、野木さんの脚本は監督にとってどんなところが魅力的でしょうか。
セリフの面白さですね。セリフって言い方によっては説明になってしまいますが、野木さんが書くと説明的なセリフもそう感じさせないところが上手いなと思います。しかも、言ったセリフが後々、繋がってくる。
今回はヤクザと中学生の話ですが、街がなくなり、ヤクザという存在が追われ、聡実くんは変声期で声が変わる。いろんなものが変化していく。それが物語に通底しています。聡実くんはソプラノの声が失われることに対して不安を感じているけれど、時間が経てばみな変化するものですし、上手い下手だけでない、違った表現もあるということを聡実くんが受け止めて、成長していく物語も野木さんは描いています。しかも原作をリスペクトして、原作から離れていない。素晴らしいと思います。
──ヤクザが中学生に歌を教えてもらうという設定に驚きましたが、映画を見ていると、ありなんじゃないかと思えてきます。
悩める15歳の合唱部の部長と歌が上手くならなきゃいけないヤクザを思いついた和山さんはすごいなと思いつつ、俺も最初のころは「マンガだからできるよな」と心配していました。しかし、原作が好きな綾野(剛)くんが狂児をやるので、あり得ない2人の関係に魅力があれば、設定にリアリティが生まれ、この作品は成立すると思いました。