大家族に生まれ、家庭でも学校でも孤独に過ごす少女コット。母の出産が近づき、親戚夫婦に預けられた。そこで初めて触れた深い愛情にコットは自己を解放していく。映画『コット、はじまりの夏』はこれまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を誠実に映し出してきたコルム・バレード監督の初長編作品である。コットを演じたキャサリン・クリンチはアイルランドのアカデミー賞といわれるIFTA賞主演女優賞を史上最年少の12歳で獲得。『パラサイト 半地下の家族』などを世に送り出して来た新進気鋭のスタジオ、NEONが北米配給権を獲得した注目の作品だ。コルム監督のインタビューが届いたのでご紹介したい。(構成・文/ほりきみき)

アイルランド語は自分の人生において不可欠なもの

──原作はアイルランドの作家、クレア・キーガンが書いた小説「Foster」で、読んですぐに映画化したいと思ったとのことですが、どのようなところに惹かれたのでしょうか。

2018 年の夏、初めて「Foster」を読みました。わずか 85 ページで、ちょっと“長い”短編小説のようなものでしたが、一気に読み、感動で涙が止まりませんでした。主人公の少女の心を読者に宿らせる手法にとても説得力があり、純粋に共感を呼ぶ作品だったのです。内面的な物語ですが、子どもの視点で描かれているので、映画化できると感じました。

私は映画のストーリーテリングにおいて「この物語は誰のものなのか?」ということに興味があり、特に1 人の登場人物の視点で描かれる物語に惹かれるのです。

画像: コルム・バレード監督

コルム・バレード監督

──原作は英語でしたが、なぜアイルランド語で映画化しようと思ったのでしょうか。

この映画をアイルランド語で作ることにしたのは、私自身の生い立ちだけでなく、Cine4(※)と呼ばれるプロジェクトからの貴重なサポートがあったからです。

私はアイルランド語話者です。アイルランドの他の地域と同じように英語圏であるダブリンで育ったにもかかわらず、父が私に英語で話し掛けたことは一度もありませんでした。現在もダブリンで妻(プロデューサーのクリオナ・ニ・クルーリー)とアイルランド語を話しながら、子どもたちを育てているので、私にとってアイルランド語は自分の人生において不可欠なものであり続けています。この作品は私の最初の長編映画ですが、それ以前に制作した短編映画もすべてアイルランド語で撮りました。

数年前にアイルランド語のオリジナル長編映画制作を開発するプロジェクトが立ち上がりました。それがCine4です。私はCine4に応募するための題材を探していたときに、原作を読んだのです。舞台はアイルランドの農村部で、アイルランドらしさを見事に描写した物語でしたから、まさに探していた作品だと思いました。

※「Cine4」について

アイルランド語のオリジナル長編映画制作を開発するプロジェクト。アイルランド映画委員会(アイルランドの映画、テレビ、アニメーション産業のための国家開発機関)、TG4(テレビ放送局)、アイルランド放送庁による共同パートナーシップからなる。『コット、はじまりの夏』は「Cine4」を通じて資金提供された。

──家族における複雑な絆、精神的・心理的成長は監督にとって関心の深い分野とのことですが、このようなテーマに取り組み続ける原動力を教えてください。

この質問に答えを出すのは難しいのですが、家族は血が繋がっていようがなかろうが、生活の基盤となる集まりです。その家族という括りの中で互いに様々な感情が動いている。これは自分の本質を問う上で根本的なことだと強く感じています。言うなれば、家族は人にとって「刺激的な出来事」なのです。

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