期待以上のアドリブで応えてくれた俳優陣
──現場ではアドリブの応酬だったと聞きました。脚本とはかなり違いましたか。
アドリブは役者さんの見せ場だと思っています。役者さんご自身でどんどん作っていただき、脚本を超えていってほしい。僕も「ここはこういうコメディをやるので、面白くしてください」というメッセージを込めて脚本を書いています。今回はそこにちゃんと応えてくれる力量のある方ばかりでしたから、試写を見て「こうなったんだ」と笑い、「よくぞここまで演じてくださった」と思ったところが多かったですね。
映画という組織のトップは監督ですから、監督がいいと思うように変えてもらえばいい。ここは脚本家の色が出ているけれど、こっちは監督の色が出ているように疎らになると統一性がなくなってしまいますから。俳優の意見を聞いて、監督がこのストーリーに対して統一性が取れていると判断すれば、まったく問題ないです。現場見学に2~3回は行きましたが、そのときも監督とキャストが話し合って、その場のノリで演じてくださっていました。
──特に「このシーンには驚いた」というところはありましたか。
たくさんあって、あえて挙げるのは難しいですね。強いて言えば、孝証が「濡れた帯の痛さを見くびるな」と言って、斎藤をいたぶる場面。「そうなんだ、ムロさん、その世界でも知識が深いな(笑)」とまるで舞台を見ているように楽しませてもらいました。舞台は生き物と言われますが、現場でもそうやって変わっていったのでしょうね。
──脚本家として注目してほしいシーンを教えてください。
泉岳寺で孝証と内蔵助が出会うシーンですね。
孝証は吉良家の四男に生まれ、貧しい生活を余儀なくされて、グレていましたが、兄の身代わりとして当主の立場になり、上に立つ者の辛さを知りました。そんなときに「家臣は家族だ」と語る内蔵助と知り合い、自分も家臣を大事にすることで家臣から大事にされるようになる。また、辛い生い立ちを経験してきたからこそ、赤穂側の気持ちもわかる。だから彼らが仇討ちをしたいというときにどう解決したらいいのかを考えていく。孝証の人間的な成長のきっかけとなりました。
ムロさんの演技もいいんです。最初は投げやりな感じでしたが、段々いい人になっていく。そこを絶妙に演じ分けてくださっていますので、注目してご覧いただければと思います。
──先月、書き下ろし小説として「縁結び代官 寺西封元」(角川文庫)が発刊されました。次のテーマはもう決めていらっしゃいますか。
次は甲賀忍者の話です。忍者って戦国時代は活躍していましたが、江戸時代には戦がないので、みんな農民に戻ってしまいました。しかし戊辰戦争のときに甲賀忍者が活躍しているのです。戦となれば「名を挙げるぞ」ともう一回忍術修行を始めたところに面白さを感じました。忍者大全のような本としてリアルな忍者を描きたいと思っています。
<PROFILE>
原作・脚本 / 土橋章宏
1969年12月19日生まれ、大阪府出身。小説「海煙」(11)で伊豆文学賞受賞以降、小説を中心にTVドラマや映画の脚本、漫画原作などを多数手掛ける。2011年に執筆した脚本『超高速!参勤交代』で第37回城戸賞を受賞。その後同作は映画化を果たし、第38回日本アカデミー賞最優秀脚本賞(14)を受賞。近年の主な作品は、小説「号外! 幕末かわら版」(22)や漫画「スマイリング!」(20)、映画『引っ越し大名!』(19)、『水上のフライト』(20)、NHK BSプレミアム「十三人の刺客」(20)、ドラマ「無用庵隠居修行」(23年3月/BS 朝日)などがある。
『身代わり忠臣蔵』2024年2月9日(金)全国公開
<STORY>
嫌われ者の殿・吉良上野介(ムロツヨシ)が江戸城内で斬られ、あの世行き!斬った赤穂藩主は当然切腹。だが、殿を失った吉良家も幕府の謀略によって、お家存亡の危機に!! そんな一族の大ピンチを切り抜けるべく、上野介にそっくりな弟の坊主・孝証(ムロツヨシ)が身代わりとなって幕府をダマす、前代未聞の【身代わりミッション】に挑む!さらに、敵だったはずの赤穂藩家老・大石内蔵助(永山瑛太)と共謀して討ち入りを阻止するというまさかの事態に発展!? 幕府に吉良家に赤穂藩も入り乱れ、バレてはならない正体が…遂に!?
<STAFF&CAST>
原作:土橋章宏「身代わり忠臣蔵」(幻冬舎文庫)
監督:河合勇人
脚本:土橋章宏
出演:ムロツヨシ、永山瑛太、川口春奈、林遣都、北村一輝、柄本明、寛一郎、森崎ウィン、本多力、星田英利、野波麻帆、尾上右近、橋本マナミ、板垣瑞生、廣瀬智紀、濱津隆之、加藤小夏、野村康太、入江甚儀
テーマ曲:東京スカパラダイスオーケストラ「The Last Ninja」
(cutting edge / JUSTA RECORD)
配給:東映
© 2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会
公式サイト:https://migawari-movie.jp/