恋人を殺された岩森は怒りと絶望に苦しみ、「ペナルティループ」という何度でも復讐ができるプログラムを利用して、加害者である溝口をナイフや銃で繰り返し殺害していく。映画『ペナルティループ』は主人公が自分の意志でタイムループに入っていくという珍しいタイプの作品である。復讐を重ねることで変わりゆく岩森の心情を『市子』(2023)での熱演の記憶が新しい若葉竜也が繊細な演技で表現した。溝口を伊勢谷友介が演じたことで話題になっている。脚本も書いた荒木伸二監督に物語の着想のきっかけやキャスティング、現場の様子をうかがった。(取材・文/ほりきみき)

セリフが少ないことでかえって燃えたと若葉竜也

──若葉さんが「いただいた初稿はもっとノイジーだったので、音のボリューム感をどう調整していこうかみたいなことを考えていました」と語っていらっしゃいます。前半はほとんどセリフのない作品ですが、初稿は完成稿とはかなり違うのでしょうか。

ノイジーか。セリフがほぼないあの脚本をどうノイジーと思ったのか、私には分かりません。空白こそノイジーみたいな感じかな。若葉さんが読んで言ってたのは「演技をする上でセリフをとても頼りにしているので、セリフがないのは自由を奪われている感じだけれど、けっして嫌いではなく、かえって燃えた」ということでした。

『デューン 砂の惑星 PART2』(2024)の取材でドゥニ・ビルヌーブ監督が「言葉を何も信じていない」という話をしていたようですが、強く共感する部分があります。

感じて欲しいんですよね、映像と音響を。言葉が溢れると、特に説明的な言葉が溢れるともう観客は情報処理マシーンです。何も2千円払ってそんなことをする必要はない。普段は感じられないことを感じるためにお金を払うんだろうと。少なくとも自分はそうです。

若葉さんがそれに共鳴したのか、寧ろ自由を奪われたことに興奮してくれたのかは分かりませんが、危険なゲームに乗ってくれた感じです。若葉さんはキム・ギドク監督の『メビウス』(2014)を例に出したりしました。「まあ、あそこまでセリフをなくさなくてもいいか。あ、でも、全部なしでいけたら面白いか」なんて話を無邪気にしていました。

読み合わせのときは助監督がト書きを読んでキャストがセリフを喋るのですが、この映画の読み合わせをした時に、前半特に、ほぼト書きの朗読を聞いているという異様な場になってしまいました。ずーっとト書、そしてたまに役者たちが「ああ」とか「うん」とかセリフを入れる。ふと「えーっと、今、俺、何しるんだっけ」みたいな(笑)。

セリフや会話自体の力というものがあっても面白いし、情報を説明するセリフでなければあってもいいかなと思って、クランクイン1ヶ月くらい前にセリフをちょっと増やしてみたのですが、結局、減らして、今の形になりました。

画像: セリフが少ないことでかえって燃えたと若葉竜也

──ト書きだけで人物を作るのは俳優の方々にとっては大変ではありませんか。

どうでしょうか。でも皆さん、そういう困難を与えると喜ぶでしょ、デキる役者さんたちは(笑)。

あ、でも一応、全ての役に履歴書的なものを作って渡していて。

岩森は芸大に落ちて、別の大学の建築学部を出て、定職につかず、東京から離れたところに部屋を借りて、そこをリノベーションし、たまに建築の模型作りのバイトをしながら何とか食いつないで暮らしている。いつの間にか画家になる夢を捨ててしまった。それに対して溝口は元自衛官。だから様々な技術を持っている。強い上下関係のある業界の繋がりで頼まれた汚れ仕事をやって生きている人。唯は女子御三家を出て東大法学部から外務省に入ったという設定。人生の中で自分にズケズケ指図してくる強めの女性って大体、女子御三家出身だったんで、そういう偏見をもとに設定しました(笑)

先日、山下さんと一緒にインタビューを受けたのですが、かなり几帳面に役作りをされる方で、その履歴書を完全に頭に入れていたみたいです。役者さんによって仕事の仕方は違うから履歴書があっても気にしない人もいると思いますが、そういう拠り所を作ってあげることも大事な場合もあるのかもしれないと思いました。

デヨンさんが演じた謎の男は、韓国のとても頭のキレるシステムエンジニア出身の起業家で、あまり裕福ではない家庭に生まれ、母親はトッポギ屋をやって生計を立てていた。とか書いて、それをデヨンさんに見せたら「僕のお母さん、本当にトッポギ屋さんやってました」って。偶然、本人と被ってました。

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