恋人を殺された岩森は怒りと絶望に苦しみ、「ペナルティループ」という何度でも復讐ができるプログラムを利用して、加害者である溝口をナイフや銃で繰り返し殺害していく。映画『ペナルティループ』は主人公が自分の意志でタイムループに入っていくという珍しいタイプの作品である。復讐を重ねることで変わりゆく岩森の心情を『市子』(2023)での熱演の記憶が新しい若葉竜也が繊細な演技で表現した。溝口を伊勢谷友介が演じたことで話題になっている。脚本も書いた荒木伸二監督に物語の着想のきっかけやキャスティング、現場の様子をうかがった。(取材・文/ほりきみき)

大事なのは“これは岩森の話である”ということ

──復讐の繰り返しの合間に岩森と唯の出会いが描かれます。これをどのタイミングで入れ込むか、かなり悩まれたのではないでしょうか。

ループと回想をどう組み合わせるのかはとても大切で、まずは脚本段階で、それぞれバラで流れを作ってから、「こうなって、こうなって、こうなるから、ここだよね」と回想をはめ込みました。

で、撮影したものを編集に渡すのですが、その編集。今回はベテランの早野亮さんにお願いしました。早野さんの編集作品で最初に気になったのは『星の子』(2020)、最近でいえば『月』(2023)です。映画を観ながら、あ、いま編集で魅せられているなと感じる瞬間が彼の編集した映画には何度もあると思います。「是非!」と指名でオファーしました。

早野さんと編集を始めた初日に「ここをちょっと短くして、こうこうこうで…」と長々と説明していると「監督、細かいことはもう言わなくていいから。どうしたい?」と聞かれ、「もうちょっと緊張感が出るようにしたい」とか「ここが長いので、さっと次に行きたいんです」とざっくり注文をしてみる。そしたら、ちゃちゃっとやってくれる。しかも早い。ちょっとコーヒーでも飲もうものなら、終わっている。

恐らく全テイク、全カットが頭に入っていて、それをどう繋ぐかも経験上、わかっているのでしょうね。しかもちょっと新しい味が好き。「こういうことをやってみたら?」というチャレンジもしてくれる。夕方、私が帰って、翌日、行くと、「ちょっと違ったのがあるので見てください」と見せてくれたこともありました。その冒険心がすごく好きですね。

ループものはだらっと見せると粗が見えてくるだけなので、どのくらいさささっと手品のように見せるかが大事です。この作品においては回想をどこに入れるかで大きく変わる。いろいろトライして、今の場所がベストと結論したのです。

画像: 唯(山下リオ)

唯(山下リオ)

──何をポイントにここがベストだということを決めましたか。

もちろん見ていて面白く、飽きないといったことが大事ですが、それ以上に大事なのが“これは岩森の話である”ということ。岩森の心情をベースにしようということは若葉さんと最初から話していたことですし、そうやって撮っています。

ただ、問題は岩森が知っていることを観客が知らないという複雑な構造にしたこと。そこが1つの面白いところでもあるのですが、「そんなに早くバラしていいの?」とか、「バラさないとちょっと…」みたいなことを編集でずっとやっていました。

──これからご覧になる方に向けてひとことお願いします。

99分の乗り物を作った感じなので、客席のアームレストにしっかりつかまって、お気を確かに、振り落とされないようにご覧ください。気に入ったら、何度も見てもらえると嬉しいです。繰り返し見ると更に楽しめる作品にできたと思っています。

<PROFILE>
脚本・監督:荒木伸二

1970年生まれ、東京都出身。東京大学教養学部表彰文化論学科卒。CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターとして数々のCM、MVを手掛ける。その傍らシナリオを本格的に学び、テレビ朝日21世紀シナリオ大賞・優秀賞、シナリオS1グランプリ・奨励賞、伊参映画祭シナリオ大賞・スタッフ賞、MBSラジオ大賞・優秀賞など受賞。17年、木下グループ新人監督賞で準グランプリを受賞したオリジナル脚本『人数の町』(20/主演:中村倫也)で長編映画デビュー。同作は新藤兼人賞の最終選考作品に選出され、モスクワ国際映画祭、バンクーバー国際映画祭で招待上映を経て、シカゴで開かれたアジアンポップアップシネマ映画祭のオープニング作品に選ばれた。本作で2作目となる長編演出に挑む。

『ペナルティループ』3月22日(金)、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国公開

画像: 映画『ペナルティループ』特報|3月22日(金)全国公開 www.youtube.com

映画『ペナルティループ』特報|3月22日(金)全国公開

www.youtube.com

<STORY>
恋人の唯を素性不明の男・溝口に殺された岩森淳は大きな喪失感を抱えながら、自らの手で犯人に復讐することを決意。綿密な計画を立て、完璧に実行したはずだったが、岩森が翌朝目覚めると、周囲の様子は昨日のまま。確かに殺したはずの溝口も生きている。そう、時間が昨日に戻っているのだ。困惑しながらも復讐を繰り返す岩森だが、何度殺しても翌朝は来ず、その度に恋人の敵を討ち続けることになる。昨日殺した敵を、今日もまた殺す。自らが選んだはずの復讐のループは否応なく繰り返され、先の読めない展開が待ち受ける異色作。何度でも復讐できるプログラム=「ペナルティループ」の果てには何があるのか——?

<STAFF&CAST>
脚本・監督:荒木伸二
撮影:渡邉寿岳
照明:水瀬貴寛
音響:黄永昌
美術:杉本亮
装飾:山川邦彦
スタイリスト:伊賀大介
ヘアメイク:大宅理絵
編集:早野亮
出演:若葉竜也、伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン
配給:キノフィルムズ
2023年/日本/99分/PG12
© 2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
公式サイト:https://penalty-loop.jp/

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