恋人を殺された岩森は怒りと絶望に苦しみ、「ペナルティループ」という何度でも復讐ができるプログラムを利用して、加害者である溝口をナイフや銃で繰り返し殺害していく。映画『ペナルティループ』は主人公が自分の意志でタイムループに入っていくという珍しいタイプの作品である。復讐を重ねることで変わりゆく岩森の心情を『市子』(2023)での熱演の記憶が新しい若葉竜也が繊細な演技で表現した。溝口を伊勢谷友介が演じたことで話題になっている。脚本も書いた荒木伸二監督に物語の着想のきっかけやキャスティング、現場の様子をうかがった。(取材・文/ほりきみき)

新しい伊勢谷友介を画面に留めることができた

──溝口に伊勢谷友介さんをキャスティングされたのは監督の意向でしょうか。

プロデューサーからの提案でした。じゃあまず会ってみましょうってなって。

休業期間を経て、やさぐれて、ぶくぶくに太っただらしない伊勢谷友介に会えるかと思ったら、シュッと引き締まったハンサムが現れて。正直、期待はずれでした(笑)。でも、話し込んでいくと、次第にいろんな顔が見えてきて。

撮影が近づいてスタッフに囲まれるようになると、緊張してるっていうか、ちょっとシャイになってる感じがしました。社会的な罰を受け、自分を信頼してくれた人から裏切られた気分だと言われたりしたこともあって、彼は深く傷付いていると感じました。

若葉さんも色々感じとったんだと思います。座長として伊勢谷さんとの関係性を積極的に作ってくれました。撮影の3日目、4日目くらいからかな、伊勢谷さんがすごくこの映画に馴染んできて。それはもう完全に若葉さんのお陰だと思っています。

画像: 溝口(伊勢谷友介)

溝口(伊勢谷友介)

──先日の完成披露上映会での舞台挨拶で伊勢谷さんが「若葉さんが何も気にせずに『これどうやったらいいと思いますか?』と普通に聞いてきた」といい、「僕はその姿勢が本当にうれしかった」と話していました。

びっくりしましたよ。その現場でのやりとりを知らなかったんで。若葉さんが演技に迷うとはとても思えないので、関係性づくりの一環でそうしたんじゃないかなあ(笑) いやでも意外とそのままかも。そういうね、人間的な魅力に満ちているんです、若葉さんは。

伊勢谷さんは『翔んで埼玉』(2019)や『るろうに剣心』シリーズのような大きなエンタメ作品に直近は出演されてきましたが、若い頃は是枝裕和監督の初期の作品に出たりしていた方です。私と若葉さんのやり取りを見ていて、「こういう自由ってあったな」と小さな現場の楽しさを久しぶりに思い出してくれたんじゃないかなあ。

段々と役にハマってきて、木の絵を描く辺りで伊勢谷さんが完全に溝口になりました。なんかすごかったです。自分としては完全に初体験です、こういう、なんというかミラクル的なことは。スタッフもみんな伊勢谷さんのことを大好きになっちゃって、ほんと若葉くんのお陰なんですけどね。楽しくて、かなり回しちゃいました、あのシーン。

ただ、どうやっても彼は主人公の仇役なので、いいところで切っています。編集を見て「もっと見たい」と言うスタッフすらいました。もちろん却下ですけど(笑)。今回は岩森の話を作ってるんで。でも、今の、アラフィフの、新しい伊勢谷友介を画の中に留められたのは確かで。今後またメジャーの方にいくのか、海外に行くか、私が撮ったような映画が続くのか分かりませんが、節目で1つ、何かをちゃんと定着させることができて本当によかったと思います。自分が全く想定していなかった映画作りの一つの楽しさを知ることが出来ました。

──伊勢谷さんの言葉を聞いて、若葉さんは「伊勢谷さんに限らず、スタッフに聞くこともあります」と語っていました。監督にも聞いてきたりされたのでしょうか。

めっちゃ聞いてきますね。聞くっていうか、提案してくる。各シーンの前に2つか3つくらい、ああしよう、こうしようと具体的に持ってくる。しかも“助かるねえ、そこは今、聞いてくれなきゃ”というポイントばっちりのことを聞いてくる。

例えば2回目の殺しのときに、「脚本に『叫びながら殺す』と書いてあるけれど、アクションテストのときはそうじゃない芝居でやりましたよね? どっちがいいと思います?」と聞かれました。私はブレない自分を見せたかったのか、テスト通りでって答えました。「はーい」みたいな感じで受け入れてくれたんけど、ヨーイが掛かったタイミングくらいで、“あ、叫んでやった方が面白いかも”と私が思っちゃって、「やっぱり叫ぶ方で!」と言ったら「オッケー」って。すぐ切り替えてあの演技をやっちゃう。すごいよね。

セリフも「この言い方だとこういう風になっちゃうかもね」と若葉さんから指摘されたところがありましたが、「じゃ、こうしよっか」でも「それでも、このまま言ってほしい」でも「はーい」ってやる。でもね、やっぱり値踏みされてる感覚ってあるんですよ、そういう質問とかって。だからね、いい意味でずっと緊張感持って作り続けられるんです。

画像: 新しい伊勢谷友介を画面に留めることができた

──監督からご覧になって若葉さん、伊勢谷さんの俳優としても魅力はどんなところでしょうか。

若葉さんは自分が出ている作品も客観で見ることができる方です。あれだけ演じているシーンが多かったら、普通は客観では見られないと思います。多分、試写とかでは自分だと思って見ていないんじゃないかなあ。

それと運動神経ですね。ぱっと走ったり、わぁ〜と殺したりする瞬発力もある。でも映画で面白いのって普通に歩いたり食べたりしてるところだよねって話して共感したりする。深いんです。

一瞬、狂気の俳優ぽいのですが、実際には自分をコントロールしてプロデュースすることが得意な俳優さんだと思いました。

伊勢谷さんは持って生まれた愛嬌のようなものがある。落語で言うところのフラですね。どうやっても俳優だなという感じがします。そんな演ずる者としての魅力にご本人は気付いていないのかもしれません。伊勢谷さんは監督もやっていますが、若葉さんの方が監督寄りの部分があるように思います。お二人は真逆のタイプだと思います。

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