「(人として人と話したいから)映画を撮っていたかなとも思うんです」

――コロナ禍が変えたことは、人の交流もですよね。海外の映画祭、オスカーなどを経て、変わったみたいなところはあります?

濱口 オスカーを取ったからと言って、現時点では特に変わってないと思ってますし、もうその賞味期限も切れたのではないかな、と(笑)。僕が勝手に思ってるのは、自分は人との出会いによって変わるタイプなんじゃないかという風に思ってまして。何によって自分が変わっていっているかというのは、リアルタイムではわからないんです。

画像: 「(人として人と話したいから)映画を撮っていたかなとも思うんです」

でも、誰かと人間として話すっていうことは、社会的なことが原因か、個人的なことかわかりませんが、どんどん難しくなってきているという実感はあります。それはとてもいやだなと思います。なので、人として人と話すっていう機会が欲しくて、映画を撮っていたかなとも思うんです。

続けていると、たまに自分にとって良い出会いがあって、最近だと大きかったのは、ビクトル・エリセ監督にポルトガルの映画祭で直接お会いできたこと。『ミツバチのささやき』が、この映画にもかなり影響を与えていることもあって、お会いできて、制作の話も伺えたのは、この作品を作ったおかげだな、と。映画監督で人格者だと実感する人に初めて会ったかも、と言ったらいい過ぎですが(笑)。こういう人だから、ああいう映画ができるんだなというような感じでした。もちろん短い時間だったので、こっちの思い込みかもしれませんけど。

――そういう人に会える可能性が残っているのは、まだ希望が持てる。

濱口 本当にそうですね。いろんな嫌なことを全部帳消しにして釣り合いが取れるぐらいいいことだったような気がします。

――いやなことってなんですか。

濱口 僕にとって嫌なことは、自分が忙しいときに人の相手をしていると、自分が嫌な人間としての振る舞いをしているような、相手をちゃんと人間扱いしていないような気持ちになっていくことですかね。

――濱口さん、本当にいい人ですね……。

濱口 いや、まあ、まったくそうでもないんですけどね……(笑)。

映画『悪は存在しない』
4月26日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」ほか全国順次公開

出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典/田村泰二郎
監督・脚本:濱口竜介 音楽:石橋英子
製作:NEOPA / fictive プロデューサー:高田聡 撮影:北川喜雄 録音・整音:松野泉 美術:布部雅人 助監督:遠藤薫 制作:石井智久 編集:濱口竜介 山崎梓
カラリスト:小林亮太 企画:石橋英子 濱口竜介 エグゼクティブプロデューサー:原田将 徳山勝巳 配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム  宣伝:uhuru films
2023年/106分/日本/カラー/1.66:1/5.1ch ©2023 NEOPA / Fictive 

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