生放送のクイズ番組の頂上決戦で、なぜ対戦相手は0文字で正解できたのか。小川哲による人気ミステリーを実写化した映画『君のクイズ』は不可解な事態を巡り、人間の思考と感情の奥行きを鮮やかに描き出す。メガホンをとった吉野耕平監督は中村倫也、神木隆之介、ムロツヨシと共に、いかにして「静」の戦いを熱狂的なエンターテインメントへと昇華させたのか。こだわりのビジュアルや役者陣との演出術、物語に込めた想いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

坂田に投影した“演出家の業と罪”

──映画はムロツヨシさん演じる坂田を含めた3人の物語となっています。坂田を“第三の主人公”として膨らませた理由を教えてください。

本来、物語としては坂田を出さなくても成立はするんです。でも、クイズというものを考えたときに、“出題する側の存在”が実はとても重要なんですよね。クイズはスポーツのように見えますが、特にテレビのクイズは“クイズを見せる人”がいて、初めて成立する。伊沢さんが書かれた「クイズ思考の解体」などにもその視点が強く書かれていて、クイズの歴史は“出題者”とともに発展してきたんだと分かるんです。

そう考えると、坂田を画面に出したくなってしまった。彼は“クイズを作る側の人間”であり、同時に“演出する人間の業”や“罪”のようなものを背負っている存在でもある。「何もしていないようでいて、実は裏でさまざまな糸を引いている。けれど、それを表には出さない」という立ち振る舞い。ある種、役者と共犯関係を結んで作品を創り上げていく監督という職業と、彼の立場は重なるんです。

坂田というキャラクターを通じて、自分自身の想いを投影できたと言いますか、彼という存在を構築していく作業は、僕にとっても非常に楽しい時間でしたね。

──監督としては坂田が実はいちばん共感できる人物なのですね。

そうなんです。坂田には、いいところも悪いところも含めて、すごく共感できる部分が多いんですよね。現場でも、坂田が暴れ回っている姿を見るのが、僕自身とにかくうれしかったんです。“坂田という存在に物語が引きずられすぎないように”と自制する場面もあったほどですが、それくらい物語に独特の熱量を与えてくれる存在なので、描いていて本当に楽しいキャラクターでした。この映画ならではの「第三の主人公」として、物語をよりダイナミックに盛り上げてくれる存在だと思っています。

画像1: 坂田に投影した“演出家の業と罪”

──モニター室で座っている坂田の表情を見てるだけでも楽しかったです。その辺りはムロさんにお任せだったんでしょうか。

あの辺りは、現場でムロさんがどんどん膨らませていった部分が本当に大きいです。たとえば、机に置いてあったマーブルチョコをガチャガチャ鳴らしながら入ってきたり、うれしい時に椅子の手すりをガチャガチャさせたり、逆に感極まった時はチョコをぎゅっと握りつぶしたり……。大人なのにどこか“子どもっぽい”、あるいは“ちょっと逸脱した”動きをするんですよね(笑)。

そういう細かい仕草は、こちらが演出したというより、ムロさんが“坂田の気持ち”を受け取って自由に表現してくれたものです。僕はその気持ちの方向性だけを伝えて、あとはムロさんがどう表現するかを楽しみにしていました。

特に、三島と坂田が舞台上で対峙するシーンなんて、僕が伝えたのは「このあたりで立ち上がってほしい」くらいで、そこから先の動きはほとんどムロさんの創造力。撮影しながら、スタッフみんなが“どうなるんだろう”とワクワクしながら見守っていました。あの瞬間のライブ感は、現場ならではでしたね。

──坂田が三島を煽り、挑発していく様は本当にお見事でした。観ているこちらまで翻弄されるような感覚がありました。

本当にそうですね。対峙していた中村さんも、「こういう(人を煽るような)役、ムロさんは本当に上手いよなあ」と、少しイラッとした様子で仰っていました(笑)。

三島という役柄としてだけでなく、おそらく中村さんご本人としても、役を越えてリアルにイライラしてしまうほどの説得力がムロさんの演技にはあったのだと思います。あのヒリヒリとした空気感は、お二人の信頼関係と実力があってこそ生まれたものですね。

画像2: 坂田に投影した“演出家の業と罪”

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