家族とは何か。失われた命の重さを、残された人々はどう受け止め、どう生きていくのか――。『湯を沸かすほどの熱い愛』以来10年ぶりの完全オリジナル作品となる『私はあなたを知らない、』で、中野量太監督は、これまで描き続けてきた「家族」というテーマをさらに深く掘り下げた。一つの事件から着想を得て、長い時間をかけて温めてきた本作。命が失われることで、その周囲の人々の人生がどう変化していくのかを丁寧に描き出す。「家族とは何か」という問いに向き合い続ける中野監督に、タイトルに込めた思い、登場人物の創造、そして坂口健太郎、早瀬憩らキャストとともに作り上げた人物像について話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

事件から着想を得た原点と、タイトル・役名に託した想い

──『湯を沸かすほどの熱い愛』以来10年ぶりの完全オリジナル作ですね。着想のきっかけから教えてください。

家族を知らずに育った青年が、シングルマザーと出会い、その幼い娘と一緒に暮らすようになる。しかしその後、別れることになってしまう。一度知った家族の温もりが忘れられない男は復縁を求めるが、最終的に彼女を殺めてしまう――という事件がありました。

これまでずっと家族を描いてきた僕にとって、その事件は心に引っかかったものの、「人を殺める」という描写をうまく描くことができないと感じて、ずっとアイデアとして温めていたのです。

今回、再びオリジナル作品に挑戦しようと考えた際、この題材にチャレンジしたいという思いが強くなりました。また、昨今は戦争をはじめ、人の命が簡単に軽視されてしまうような世の中だと感じ、「命というものをどう描くべきか」を深く考えたのです。

そこで自分が行き着いたのが、「たった一つの命が殺めて失われることで、その周囲の人々にどれだけのことが起こり、どれほど人生が変わってしまうのかを、とことん丁寧に描くこと」でした。それこそが、僕にとっての今の世の中に対する表現になり得るのではないかと考えたんです。

構想自体は5〜6年ほど温めており、そこから本格的に挑戦しようと動き出したのが2〜3年前のことでした。

──監督はこれまで一貫して「家族」、そして「残された人がどう生きるのか」を描いてこられました。その積み重ねがあったからこそ、「今なら被害者家族を描くことができる」と思えたのでしょうか。

それもありますし、正直に言うと、これまではこの題材から少し逃げていた部分もあったんです。やっぱり、とても難しい題材ですから。

でも今回は、その難しさから逃げるのではなく、真正面から向き合って考えようと思えたんですよね。たぶん、これが一本目の作品だったらできなかったと思います。でも、三本、四本と作品を重ねてきた今なら挑戦できるんじゃないかと思えました。だから今回は、覚悟を決めて取り組みました。

画像1: 事件から着想を得た原点と、タイトル・役名に託した想い

──本作はタイトルの末尾に読点(、)が付いているのが印象的です。なぜこのタイトルにされたのでしょうか。また読点にはどんな思いを込められたのでしょうか。

世界観を作りやすくするために、タイトルはいつも一番最初に決めちゃいます。

この作品は最初から「私はあなたを知らない」というセリフが登場人物の言葉として出てきます。さらに別の人物も言うのですが、それぞれ言った意味が違うんです。

きっと「私はあなたを知らない、でもこうだろう」とか「私はあなたを知らない、だけど……」といったように、それに続く思いというのを、実はこの映画では描いていると思っていて。決して「あなたを知らない。はい、これで終わりですよ」という話ではないので、ポツンと「。」で終わってしまうのが嫌だったんです。

そのあともまだ言葉が続くんだよ、この物語も続くんだよ、ということを表現したいと思った時に、僕の中では「、」が必要でした。思いも続くし、続く言葉があるんだな、と思ってもらえればいいなと思います。

──メインキャラクターの名前(朝子、夕平、紗月)に「朝」「夕」「月」という言葉が使われていますが、これらの漢字にはどんな意味を込められたのでしょうか。

意味というより、それぞれのキャラクターのイメージですね。

まず夕平は、昼間の人ではないという感覚があったんです。だから、明るい昼ではなく、一日が暮れていく「夕」のほうが彼には似合うと思いました。

朝子は、これから先の人生がまだ長く続いていく人物です。そういう未来への思いも込めて「朝」という字を選びました。

紗月については、表面上は明るく振る舞っているけれど、心の中にはどこか影がある人物です。そんな彼女には「月」のイメージが重なりました。

僕は、タイトルを最初に決めるのと同じくらい、登場人物の名前もすごく大事にしています。名前はその人を表すものだと思っているので、作品ごとに何かしらつながりを持たせることが多いんです。

以前は登場人物全員の名前にさんずいの付く漢字や水にちなんだ名前にしたこともありました。今回は、「朝・昼・夜」という一日の流れのようなイメージが浮かんできて、そのつながりの中で名前を付けたのです。

画像2: 事件から着想を得た原点と、タイトル・役名に託した想い

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