唯一無二の存在に成長したA24の10年史
映画ファンにとどまらず、カルチャーやファッション、アート好きにまで波及し、クリエイターにも高い人気を誇る映画会社A24。唯一無二と言っていい存在だが、実は設立から10年しか経っていないのだ。2012年から2022年までの歩みを、改めて振り返ってみよう。
映画財務・映画製作・配給の専門家3人によって2012年に立ち上げられたA24は、2013年にロマン・コッポラ監督作『チャールズ・スワン三世の頭ン中』で劇場配給をスタート。次に、ハーモニー・コリン監督作『スプリング・ブレイカーズ』(2012)、ソフィア・コッポラ監督作『ブリングリング』(2013)をヒットさせ、作家性の強い作品を配給する会社として頭角を現す。
その後『複製された男』(2013)『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2014)『Mr .タスク』(2014)といったクセの強い作品を次々に手掛けていくが、「コアなファンだけにわかればいい」精神のアンダーグラウンドなジャンル映画連発スタジオまっしぐら……という道を進まなかったのが興味深い。
その要因となったのは、マーケティング。作品の中身についてはクリエイターに任せつつ、作品と合うユーザーに浸透させていくアイデアが豊富なのだ。テレビで広告を打たず、SNSに特化したプロモーションを行う一方で、作品の舞台で野外上映を行うプロジェクトにオークションなど、リアル/デジタルの使い分けが秀逸。劇場作品に加え、Apple TV+やHBOとも組むなどプラットフォームも選ばない。
加えて、デザイン性の高い自社グッズを次々と開発・販売し、ファッションブランド的な展開も。その結果、コアな映画好きはもちろんのこと「捕まえにくい」とされる20~30代のファンを獲得し、若者の憧れの存在へと上り詰めた。
もちろん、作品の審美眼も極めて優秀。2015年~16年に『ムーンライト』をはじめアカデミー賞受賞作品が立て続き、作品のクオリティにおいても全幅の信頼を得た。映画祭等で優秀なクリエイターを発掘し、育てるというスタイルもA24ならではで、『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスター監督、『WAVES/ウェイブス』(2019)のトレイ・エドワード・シュルツ監督など、A24とのタッグでブレイクした人材は数多い。質と話題性を兼ね備えた映画会社、それがA24なのだ。
【チェック】秀作を生んだ名コラボ
A24 × PLAN B 『ミナリ』
『ムーンライト』(2016)に続き、ブラッド・ピットの制作会社PLAN Bとコラボ。1980年代の米国を舞台に、韓国系移民の家族の苦闘と絆をつづる。第93回アカデミー賞助演女優賞受賞。
A24 × Apple TV『マクベス』
ジョエル・コーエン監督、デンゼル・ワシントン&フランシス・マクドーマンド共演で、シェイクスピアの名作舞台をモノクロ映画化。権力に取りつかれた夫婦の壮絶な末路を描く。
A24 × HBO『ユーフォリアEUPHORIA シーズン2』
性と暴力、ドラッグにおぼれる10代の危険な青春。ラッパーのドレイクが製作総指揮を務め、斬新な映像表現や奇抜な音楽、ゼンデイヤの怪演が話題に。現在シーズン2まで制作。