海上自衛隊の潜水艦が沈没し、艦長の海江田四郎を含む全乗組員の死亡が報道される。しかし乗員はみな生存していた。事故は日米政府が極秘に建造した高性能原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だった。映画『沈黙の艦隊』はかわぐちかいじによる同名人気コミックの映画化。主演の大沢たかおがプロデュースも手掛けている。メガホンをとったのは、『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督。原作ファンという吉野監督がいかにしてこの作品に挑んだのか、話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

アイスを食べる姿さえカッコいい玉木宏

──深町は海江田の暴走を止めようとします。玉木宏さんが作ってきた深町洋はいかがでしたか。

深町は海江田と戦える唯一の男です。この作品では常にポーカーフェイスの海江田と、考えがすぐ顔に出て、体も動いてしまう深町の対比を描くのがポイントだったので、玉木さんには事前に「深町は発令所で常に声を出し、動き回っている感じです」とお伝えました。

玉木さんご自身もエネルギーが動きから満ち溢れている方です。玉し木さんが作ってきた深町は声の出し方、歩き方1つ取っても、エネルギーに満ちていて、「たつなみのパートはこれでいけた」と思いました。

画像: アイスを食べる姿さえカッコいい玉木宏

──作品の冒頭でカメラが海の中から潜水艦にすーっと入っていき、深町と海江田を映し出します。そこで2人の違いがしっかり伝わってきました。

潜水艦の中はどうなっているか。観客にとって未知の世界ですから、冒頭からまず潜水艦にはこんな空間が広がっているということを見せつつ、2人のパーソナリティの違いを見せたかったのです。深町が狭い艦内廊下をくぐり抜けながら歩いて行く。対して、海江田が暗い洞窟のようなところの奥にひっそりと佇む男というのは象徴的かなと思っています。唯一の誤算は深町が歩きながらアイスを食べる姿がカッコよすぎたことですね。もう少しファニーに描けるかなと思ったのですが…(笑)。

実際に潜水艦に乗艦される方から話をうかがいましたが、アイスは楽しみの1つだそうです。しかも、“緊急事態にはとにかく何か腹に入れておけ”というのは大事なことで、がぶっとアイスを食べつつ、ピリッと歩いて行くのは深町のキャラクターとしてぴったりのではないかと思ったのです。

──海江田とは違ったワイルドなカッコよさですね。

そうですね。僕もすごく好きなシーンです。

──海江田と深町は違う潜水艦に乗っているので、基本的には共演シーンがありません。1回だけ共演シーンがありましたが、その演出はどのようにされましたか。

そこはお二人がそれまでに作ってきた海江田と深町の像がぶつかるシーンです。こう演出したいというよりも、2人がぶつかったらどうなるのかを目撃するというか、自分も楽しんで見守るシーンだと思っていました。

──大沢たかおさん、玉木宏さんの俳優としての魅力をお聞かせください。

大沢さんは海江田が艦長であり、部下たちを守らなくてはいけないという役どころを意識されていたのだと思いますが、現場では大らかで、積極的に声を掛け、チームの一体感を出していこうとカメラの回っていないところではずっと動き回っていました。一方で海江田としては、何事にも動じない‘不動の人物’を演出したいとお願いしていたので、動きで芝居をさせてもらえない。カメラの前で表情を変えずにずっと立っている。しかも専門用語が多い。役者的にはすごく苦しかったと思います。

しかし、そういう素振りをまったく見せず、さらっとやっているように見せながら、完璧に演じてくださいました。海江田がブレていたらみんなが不安になる。そこをしっかり意識されていたのではないかと思います。プロ意識といいますか、役者としての覚悟が凄かったです。そういう信頼感、オーラみたいなものがあったので、演出家としては“海江田をどう切り取るか”ということに専念できたのはとてもありがたかったです。

玉木さんはカメラが回っていないところでは大きな声で話す方ではありません。ちょっとポーカーフェイスなところがありますが、別に怒っているわけではなく、穏やかに落ち着いた方です。

ところが、カメラが回った瞬間にスッとスイッチが入って、エネルギーが溢れる感じになる。そこは見ていてワクワクしましたね。肉体の説得力といいますか、歩き方1つを取っても、そのエネルギーがつま先まで満ちているのが被写体としても魅力的で、撮っていると気持ちが上がってきました。

大沢さんも玉木さんも日本人としては立体的な肉体ですし、お顔も彫りが深いですから、陰影が映えるのです。カメラマンも「どこからこの人たちを切り取ろうか」とすごく楽しそうに撮っていました。静と動、その動きやテンションを両方とも堪能できた気がします。

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