映画『ミッシング』は石原さとみが2022年の出産後、1年9ヶ月ぶりの芝居に臨んだ作品である。吉田恵輔監督作品への出演を熱望し、直談判した石原が演じるのは娘の失踪により徐々に心を失くしていく母親・沙織里。女優として、これまでに見せたことがない顔を見せた。娘の行方を探し続ける家族の取材を真摯に続ける地元テレビ局の記者・砂田を中村倫也、不器用ながら沙織里を支え続ける夫・豊を青木崇高、最後の目撃者となった沙織里の弟・圭吾を森優作が演じている。オリジナルで脚本を書いた吉田恵輔監督に作品への思いを語ってもらった。※吉田恵輔監督の吉は<つちよし>が正式表記。(取材・文/ほりきみき)

青木崇高には大型犬のような愛おしさがある


──夫の豊はどんなときでも沙織里を支え、感情が昂ってもキレてしまうことはありません。そんな豊を青木崇高さんは見事に体現されていました。

豊には沙織里の熱量を受けとめて、守れるような男であってほしいと思っていました。青木さんは体格がいいし、体毛や髭が濃く、男臭さを感じる。でも、どこか不器用そうで、青木さんが泣きそうな顔をしたら、男の俺が見てもキュンとしてしまうかもしれない。大型犬のような愛おしさがある方ですね。


──青木さんとは事前にどのような話をされましたか。

事前に顔を合わせたときは世間話をしただけで、作品のことを話さないまま終わってしまいました。現場でも基本、石原さんに捕まっているので、細かい芝居のクセみたいなものをどちらにするかといったことくらいしか話をしていません。“どこまで攻撃的でもいいのか”、“どこまで冷めていてもいいのか”といった線引きもこちらが言わなくてもいいところを突いてきてくれていたので、「もうちょっと強くてもいいかもしれないね」くらいしか言うことがありませんでした。脚本の理解度が素晴らしく高い方です。しかも青木さん自身が豊のようなキャラクターですから、やり辛いことはなかったと思います。

画像1: 青木崇高には大型犬のような愛おしさがある


──テレビ局の記者として報道の仕事に携わっている砂田を中村倫也さんが演じています。登場したときの表情が『空白』の松坂さんと雰囲気が似ていた気がしました。

以前から上手い人だなと思っていて、一緒に仕事したい人リストの上位に名前があったのですが、偶然、役柄にハマっていたのでオファーしました。

砂田は少し抑えめなキャラクターですが、俺が好きなキャラクター像が大体そう。中村さんは元々そういう芝居をやっている人なので、『空白』で松坂さんが演じたキャラクターに近いように見えたのかもしれません。そもそもイケメンな人って引き算していくとあんな感じになるんですよ(笑)。


──中村さんとも詳しく話をすることはなかったのでしょうか。

映画の内容について、俺も言わないし、中村さんも聞かないといった感じでしたね。中村さんが黙々とやって、俺が「こういう感じにしてもらえますか?」と話すと、ひとこと「わかりました」と言って、淡々と演じてくれる。現場でも他愛のない話しかしていません。

実はその手のタイプの俳優が俺の映画ではいちばん多い。『空白』で言えば、古田新太さん、松坂桃李さん、寺島しのぶさんは何も言ってこなかったですね。他の作品でも、俳優の方々と映画の内容について話すことはほとんどしてきていないのです。

ですから、中村さんのテレビ局のシーンはいつもの俺の映画スタイルっぽくて、とてもやりやすかったですね。慣れた雰囲気での撮影でリラックスして、「明日、一日がんばるぞ!」と思っていました。

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