他人のために泣け、他人のために動ける人間には何か光は差す
──「ミッシング」というテーマは描き切れましたか。
「ミッシング」に関しては描き切ったと思います。結構、詰め込んでいますから、もうこれ以上は描きたいことはありません。
自分がどれだけ辛い状況に置かれても、他人のために泣けて、他人のために動ける人間には何か光は差すのではないかと思います。沙織里がそういう人間であろうとする物語を作りました。
──「テレビ局」に関してはいかがでしょうか。
この作品で描いたのは、あくまでローカル局の話。個々の人間の問題なので、今、俺が言いたいことはほぼ書けたと思います。
記者さんに会ってお話を聞いても、記者さんは意外に感情を出さない。聞くのはうまいけれど自分のことは聞かれても言わない。俺はテレビ局に行って、そこで聞いているから、誰がどこで何を聞いているかわかりません。テレビ局について嫌なことがあっても言えないですよね。それに記者さんはみんな真面目で、熱意のある人が多かった。とはいえ、人間だから失敗したり、誤解を生んだりすることはある。テレビ局を“マスゴミ”と呼んで不信感を持っている人もいるけれど、全部が全部悪意に基づいたものとは限らない。「お前もやると思うよ」という可能性もあるので、そこら辺も描けたと思います。
キー局になるともっと大きい問題があると思います。そうなると人数が増え、個人の感情を超えているものになってくる。1人1人の責任が薄くなってきてしまい、俺にとっては面白くない。このくらいが俺のキャパには合っていると思います。
──SNSについても描かれています。
『神は見返りを求める』(2021)でYouTuberの炎上を描きましたが、俺の中でSNSはかなり危ないものという認識。SNSを読んでいると、お互いの意見の中で共感する部分は少なからずあるのではないかと思うのですが、一方通行の攻撃をしたり、全否定というか認めたら負けみたいな感じで反論したり。そのくらいみんな刺々しい。
便利なものだし、みんな普通に使っているけれど、同時に共感や想像力を破壊するツールでもある。SNSは扱い方が本当に難しい。俺はSNSに対して、ずっと引っ掛かっています。
──前作『神は見返りを求める』で描き切れなかったこともこの作品で描いていたのですね。
もうそろそろ、止めようとは思っていますが、書きたくなってしまうのです。
飲みの席でそこにいない誰かの悪口を言ってしまうことは誰にだってあると思います。しかしSNSで呟くと当事者が直接、目にする可能性がある。“SNSは危険だからやるな”とは言わない。本文を送信する前にもう一回読み直して、もうちょっと考えた方がいいんじゃない?と伝えたいですね。
──監督はSNSをされていないのでしょうか。
アカウントは持っていますが、書いたことはないですね。煩わしいんです。脚本を書くのが仕事で、セリフ1行書くのにも逃げてしまうこともあるのに、Xの文章を考える体力も時間もありません。そもそもSNSで疲れたくないんですよ。
──監督が本作を通じて伝えたかった思いについて教えてください。
そもそもは“辛いことや耐えらないことがあったときに、人はいかに折り合いをつけるのか”という話を作ろうと思ったんです。でも折り合いをつけられない人、つけちゃいけない人もいる。ではどうすればいいのか。このことがずっと引っかかっていました。
今も明確な答えはないけれど、やっぱり人だなと思う。人を壊すのも、人を救うのも人でしかない。人との関係は難しいけれど、人との繋がりを大事にしたい。
社会が今、抱えている、さまざまな問題に触れています。石原さんのお芝居1つとっても、これまで見たことがないものが見られると思います。描いていることは難しいことではないので、軽い気持ちで見て、いろんなものを食らってほしいと思います
<PROFILE>
吉田恵輔 ※吉田恵輔監督の吉は<つちよし>が正式表記。
1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作する傍ら、塚本晋也監督作品の照明を担当。2006年、自主制作映画『なま夏』(06)で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。同年、『机のなかみ』 で長編映画監督デビュー。2008年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、自らの手で映画化。2021年公開の『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で監督賞を受賞。『空白』は、第76回毎日映画コンクール・脚本賞、第43回ヨコハマ映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と4冠に輝いた。『さんかく』 (10)、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』 (13)、『麦子さんと』 (13)、『犬猿』(18)、『神は見返りを求める』(22)などオリジナル脚本の作品を数多く手がけるほか、人気漫画を原作とした、『銀の匙 Silver Spoon』 (14)、『ヒメアノ〜ル』 (16)、『愛しのアイリーン』(18)などの話題作も監督している。
『ミッシング』5月17日(金)全国公開
<STORY>
とある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。そんな中、娘の失踪時、沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。一方、砂田には局上層部の意向で視聴率獲得の為に、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下ってしまう。それでも沙織里は「ただただ、娘に会いたい」という一心で、世の中にすがり続ける。その先にある、光に──
<STAFF&CAST>
脚本・監督:吉田恵輔
出演: 石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、柳憂怜、美保純
配給:ワーナー・ブラザース映画
©︎2024「missing」Film Partners