初の長編映画『ペンギン・ハイウェイ』(2018)で、第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した「スタジオコロリド」。長編第4弾となる映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』は“少年”と“鬼の少女”が紡ぐ青春ファンタジー。監督を務めるのは、スタジオコロリド長編第2弾となった『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)で長編監督デビューを飾った柴山智隆。主演は小野賢章と富田美憂で、小野は山形県に住む高校1年生の八ツ瀬柊(やつせ・ひいらぎ)、富田は鬼の少女・ツムギを演じる。公開を前に主演の2人にインタビューを敢行。作品への向き合い方について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

声優は収録前の宿題が多い


──ところで、セリフは覚えるものなのでしょうか。

富田:覚えないです! スタジオにマイクとモニターがあって、台本を見ながら、映像の尺に合わせてセリフを読んで収録するので、自宅で練習をするときも、セリフを尺にはめるというところに気を張っています。


──台本にセリフの尺が書いてあるのでしょうか。

富田:事前に映像をいただくのですが、その映像にセリフのタイミングに合わせて“ボールド”と呼ばれる表示が出ます。例えばツムギが喋る場面では「ツムギ」という表示が出て、それが出ている間は喋っているんです。声優は宿題が多いんですよ。

小野:覚えなくてもいい分、尺に合わせてセリフを喋る練習はしなくてはいけません。

作り込まないために、僕は「しっかり練習しました」という感じではやらないようにしています。

富田:私もそうです。以前はとても練習していったのですが、家でやり過ぎるとそれしかできなくなってしまって、「ここをこういう風に直してください」と言われてもできなくなってしまって。音響監督さんに「練習のやり過ぎが原因」と教えていただいたことがあったので、私はあまりやり過ぎないようにしています。当日、共演する人と掛け合って生まれるものもまた素敵だと思っています。


──やはり相手がいて収録するのは違うのですね。

小野:基本的には会話ですからね。練習では相手がどういう風に喋るのかを想像してやっています。何回も共演している方なら、何となくこういう感じで来るのかなということは予測できますけれど…。今回は初めてだったので、一緒に収録できてよかったです。

画像1: 声優は収録前の宿題が多い


──収録のとき、セリフに合わせて体合が動いたりするものですか。

小野:それはキャラクターによりますね。柊は性格的には静かなタイプですが、振り回されることが多かったので、バタバタやっていたかもしれません。

富田:私もキャラクターによります。口の動きが小さくてぼそぼそ喋るキャラクターだと直立不動になってしまいますが、ツムギは右腕が動く感じがあり、マイクに衣擦れが入らない程度には動いていました。


──ツムギが手を合わせながら「もう一回お願いします」というセリフがあったのですが、そのセリフを聞いていたら、富田さんがセリフを言いながら手を合わせている姿が目に浮かびました。そのセリフのとき、手を合わせていませんでしたか。

富田:多分、同じようにやっていました。そういっていただけるとうれしいです。

小野:動いてみないとわからない音ってありますから。それはみんな意識しながらやっていると思います。

画像2: 声優は収録前の宿題が多い


──先程、小野さんが若い声だけは作り込んだとおっしゃっていましたが、それはどのようにされるのでしょうか。

小野:声そのものとしては、やっぱり音としての高さですね。声の高さを維持するためには高い声をずーっと使っていることが必要ですが、役によって使う声が違ってくるので、高い声の役が多いクールは地声もどんどん高くなって、高い声が出しやすいのですが、低い声の役が続くと高い声が出なくなります。役と一緒に移動している感じです。


──低い声の役が続くと個人的に高い声を出す機会を作るのでしょうか。

小野:そうですね。1週間くらい前にはマイケル・ジャクソンみたいな高い声を出して調整をしておきます。

富田:女性にありがちなのは男の子の声をやる期間が続くと、男の子の声を出す声帯に変形してしまうこと。ですから私も定期的にボイストレーニングに行って、フラットな状態にメンテナンスしています。我々のように学生の頃から声の仕事をしていると、女性でも声変わりがあって、昔よりもエッジが効いた声になってきているのを感じています。学生のころにやっていたキャラクターを数年経ってもう一回やってくださいと言われると入念にピッチの確認をします。


──「ハイキュー!!」の山本あかね役のような場合ですか。

富田:そうです。そういうときは事前にボイストレーニングしておきます。

小野:女性はすごく高い、かわいい声を出さないといけないこともありますからね。そういう意味では男性の方が気楽にやれるかもしれません。声帯って筋肉なので、大事にし過ぎて喋らないでいるとむしろ衰えていってしまうので、僕は割と雑に扱っています。

声そのものだけでなく、精神的な部分も大事です。いろんなことに対して敏感に反応したり、わくわくしたりする気持ちはなるべく保っていたい。そのためにも、最近、流行っている言葉にはアンテナを立てるようにしています。それこそ、この作品でも休憩中に富田さんから今の若者のトレンドを教えてもらったり、僕の学生時代と富田さんの学生時代の違いは何だったんだろうと聞いたり、かなり質問攻めにしていました(笑)。

画像3: 声優は収録前の宿題が多い

<PROFILE>
小野賢章(八ツ瀬 柊役)
1989年10月5日生まれ。福岡県出身。4歳から子役として活動を始め、12歳から10年間「ハリー・ポッター」シリーズの日本語吹替版で、主人公ハリー・ポッター役を務める。その他主な出演作に『黒子のバスケ』(黒子テツヤ)、『アイドリッシュセブン』シリーズ(七瀬陸)、『ドッグシグナル』(佐村未祐)、『SPY×FAMILY』(ユーリ・ブライア)、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』(ジョルノ・ジョバァーナ)、『機動戦士ガンダム
閃光のハサウェイ』(ハサウェイ・ノア)、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(マイルス)など。また、『ニノさん』(日本テレビ)にてナレーションを担当。声優活動に加え、ミュージカルや舞台にも多数出演し、俳優としても注目を集めている。

富田美憂(ツムギ役)
1999年11月15日生まれ。埼玉県出身。2014年に「声優アーティスト育成プログラム・セレクション」でグランプリを獲得し、翌年に声優デビュー。主な主演作に『アイカツスターズ!』(虹野ゆめ)、『メイドインアビス』(リコ)、『かぐや様は告らせたい』シリーズ(伊井野ミコ)、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(チュアチュリー・パンランチ)、『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』(院田唐音)、『転生したらスライムだった件』(ヴィオレ)、『夜のクラゲは泳げない』(渡瀬キウイ)など。また朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ)のコーナーにておどろんの声を担当。2019年11月には「Present Moment」でソロアーティストとしてデビュー。放送を控えているアニメ作品も多数あり、声優・アーティストとしてさらなる飛躍が期待される。

画像4: 声優は収録前の宿題が多い

映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』2024年5月24日よりNetflix にて世界独占配信&日本劇場公開

画像: 【本予告】映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』5月24日(金)公開 youtu.be

【本予告】映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』5月24日(金)公開

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<STORY>
主人公の柊は、山形県に住む高校1年生。「みんなに嫌われたくない」という気持ちを抱きながら“周りの人のため”に努力をするものの、うまくいかない日々が続き、いつしか「自分の気持ち」に蓋をするようになっていた。ある日、柊はひとりの少女と出会う。出会った少女・ツムギは天真爛漫でちょっと自分勝手。そんな彼女に流される中、柊は突如「何か」に襲われる。危機を回避するためにツムギに手を引かれて部屋を飛び出し…行きついた先で彼女を見ると、頭には“ツノ”が!?——彼女の正体は鬼だった。幼い頃に消えた母を探しに人間世界にやってきたというツムギの旅に柊も同行し、2人は心を通わせていく。

<STAFF&CAST>
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子、柴山智隆
出演:小野賢章、富田美憂
配給:ツインエンジン・ギグリーボックス
Ⓒコロリド・ツインエンジン

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